論文 ·日本語 ·未確認
「允恭記」 歌謡の 「臥やる臥やりも」 : 副詞句節は成り立つか
- 刊行年
- 2008-03-28
- 収録
- 『人文』 pp. 382-359
- 出版
- 学習院大学人文科学研究所
- 言語
- 日本語
- NDL書誌ID
- R100000136-I1050282677911496448
- CiNii CRID
- 1050282677911496448
- ハンドル
- http://hdl.handle.net/10959/1317
- URI
- https://glim-re.repo.nii.ac.jp/records/1221
- ISSN
- 18817920
- URL
- https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000136-I1050282677911496448
要旨
上代日本語には、たとえば「佐保河を朝河(を)渡り」「短き物を端(を)切る」「もむ楡にれを五い百は枝え(を)剝はぎ垂れ」などのように一つの動詞が二種の目的語をとる構文がある。韻文だけでなく散文にも実例のある構文だが、その存在は上代語の研究者にもほとんど知られていない。 この構文に属する実例の中には、第一の目的語の内容を、第二の目的語が具体的に詳しく説明する形式になっているものが少なくない。そうした実例では、第二の目的語の指し示すものが、第一の目的語が指し示すものの一部をなす、というのが特徴である。だから、この種の構文を「目的語を細説する構文」と呼ぶことができる。 同構文と密接な関係があると見なしうるのが、「岩根踏む生駒の山」「ふさ手折りけるをみなへし」「秋風の末吹き靡く萩の花」などの構文である。目的語を細説する構文を基準にしていうと、これらの表現では、第二の目的語にあたる「岩根」「ふさ」「末」が初めに提示されており、第一の目的語にあたる「生駒の山」「をみなへし」「萩の花」が動詞の連体形と結合した形式になっている。 上記の二種の構文に属する実際の表現には、「栲たへの袴はかまを、七なな重へ(を)召をし」と「七重(を)着かる衣ころも」があり、両構文が互いに密接な関係にあることを示す。これらの表現を変形すると、それぞれ「七重を召す栲の袴」「衣を、七重着る」となる。 以上のことを踏まえると、解釈の定まらない、上代の文献に見えるいくつかの表現について、積極的に発言しうることが何点か出てくる。たとえば、槻つくゆみ弓の臥こ やる臥やりも 梓あづさゆみ弓立てり立てりも 後も取り見る 思ひ妻あはれ〔允恭記〕という歌謡の表現もその一例である。この表現の解釈については諸説あるが、目的語を細説する構文を変形したと見なしうる「岩根踏む生駒の山」その他の表現と同様に、第一の目的語にあたる「思ひ妻」が動詞「取り見る」の連体形と結合し、第二の目的語にあたる対句「槻弓の臥やる臥やりも梓弓立てり立てりも」が初めに提示されたものだ、と考えることができる。そのことは、これを「思ひ妻を、槻弓の臥やる臥やり(を)も梓弓立てり立てり(を)も、後も取り見る」と変形しうることでも明らかである。「槻弓のように横になっているのをも、梓弓のように立っているのをも」という意味のこの対句は、「思ひ妻」の様子を細説するための、連用形転成名詞を用いた目的語としての名詞句だ、と理解しなければならない。つまり、「横になっているのをも立っているのをも(いかなる状態にあるのも)、(私が)後々まで面倒を見ようと思っている愛しい妻よ、ああ」という意味の表現である。 解釈を特定することができるこうした例は、まだまだある。
この書誌の出所
- ndl— R100000136-I1050282677911496448(2026-08-12取得)
- cinii— 1050282677911496448(2026-08-13取得)
引用
佐佐木, 隆・Sasaki, Takashi(2008-03-28) 「允恭記」 歌謡の 「臥やる臥やりも」 : 副詞句節は成り立つか 『人文』 pp. 382-359 学習院大学人文科学研究所