論文 ·日本語 ·未確認
濁音鼻音要素の弱化と「〈四つ仮名〉資料」 : 『蜆縮涼鼓集』再考
- 刊行年
- 2001-03-31
- 収録
- 『國語學』 52(1) pp. 84
- 出版
- 日本語学会
- 言語
- 日本語
- crid
- 1571698602029832960
- naid
- 110002533685
- issn
- 04913337
- ndl_bib
- R100000136-I1571698602029832960
- URL
- https://cir.nii.ac.jp/crid/1571698602029832960
要旨
「発音」に言及した過去の文献は,しばしば,そこに記されていることがらが直接の取り扱いの対象となり,価値の高い音韻史資料とされる。しかし,そこで触れられていない点が(まさに触れられていないがゆえに)大きな意味を持ち,それを手がかりに,言語変化の局面をより深く窺うことのできる場合がある。本発表はそのような接近方法を次の事例研究を通して提示する。主に「四つ仮名」資料として知られる『蜆縮涼鼓集』は,濁音の前鼻音要素に言及した明白な箇所を持たない。しかし,そのことがかえって同特徴の消失化の様相を推知するうえで重要となる。『蜆縮』は『和字正濫鈔』『以敬斎口語聞書』と対照的に,次の特徴を持つ。(1)『蜆縮』は,「四つ仮名」の区別を説く際,前鼻音要素の有無に依らず,舌を「上顎」に付けるか否かのみをさかんに強調する。(2)『蜆縮』は,和語に加え,漢語における「四つ仮名」の区別を重視する立場をとる。(3)『蜆縮』は,撥音後の位置で,ザ行のジズが「舌音」(つまり破擦音)になることに注意を喚起する。特徴(1)から,当時すでに,前鼻音要素は撥音(に類似の音)として濁音から分離して認識される状況にあった(すなわち同特徴の消失化がかなり進行していた)ことが窺える。なぜなら,『蜆縮』は(2)漢語における区別(漢語は(3)「撥音後の区別」の該当語群)を重視するため,撥音と紛らわしくなった前鼻音要素の有無に「四つ仮名」の区別を求めなかったものと考えられるからである。謡曲関係の文献等に,ザ行音が撥音後で破擦音化することに注意を促す記事が見られる。これは,旧世代の発音を真似ようとした新世代が,(本来なら旧世代においてさえいち早く「四つ仮名」の区別が中和していた)撥音後の位置にまで過敏に反応したhypercorrectionである。ここにも,前鼻音要素を撥音(に類似の音)と聞く新世代の認識が関わっており,『蜆縮』の内容もその延長線上に位置づけられる。
この書誌の出所
- cinii— 1571698602029832960(2026-08-12取得)
- ndl— R100000136-I1571698602029832960(2026-08-12取得)
引用キー: 高山2001濁音鼻音要素の弱化と